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A Perfect World パーフェクト・ワールド

アメリカ映画 (1993)

T.J.ローサー(T.J. Lowther)が、人質として脱獄犯に誘拐される少年を演じるクライム・サスペンス。しかし、この映画には、誘拐という言葉で連想させるような陰鬱さはどこにもない。1992年の『許されざる者』でアカデミー監督賞を受けたばかりのクリント・イーストウッドが監督し、1990年の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』で同じくアカデミー監督賞を受けたケビン・コスナーが主演する。旬の2人が作り上げたのは、脱獄犯と誘拐された少年の間に生まれる暖かい友情と理解の物語。ケビン・コスナーの次の出演作はイライジャ・ウッドの『8月のメモワール』だが、ここでの父親像と、『パーフェクト・ワールド』での、誘拐した少年に対する父親のような眼差しとは相通じるものがある。何度見ても心に残る映画だ。

テキサス州の刑務所から、相部屋の凶暴な男テリーと一緒に脱獄したブッチは、脱獄してすぐ、テリーが勝手に押し入った「エホバの証人」を信じる母子家庭から、末っ子のフィリップを逃亡時の安全担保のための人質として奪い、北に向かって逃走する。途中、寄った雑貨店でブッチが買い物をしている間に、暴力的なテリーに怖くなったフィリップは隣のトウモロコシ畑に逃げ込む。テリーは、畑に入ってフィリップを狩り立てるが、戻って来たブッチに射殺される。と言っても、ブッチは常習的な殺人犯ではなく、これが生涯で2度目の殺人〔1回目は、8歳の時に淫売の母を傷付けた男を撃ち殺した〕。12歳の時に母が自殺してからは、ろくでもない父親に虐待されて育ち、車を盗んで乗り回していたところを捕まり、4年間ゲーツヴィル州立学校〔1979年まであった非行少年を教育する施設〕に入れられた。車を盗んだだけで4年は長すぎるが、それは、テキサス・レンジャーとして今回の脱獄・誘拐事件を担当しているガーネットが、郡の保安官だった時代に、ブッチを父親から救うために敢えてした「好意」だった。追う者と追われる者の間には、こうした昔の因縁があり、それがガーネットの心を左右する。つまり、ブッチを「幼い子供を盾にとった凶悪な脱獄犯」とはみなしていない。実際、テリーがいなくなってからの2人の逃避行は、犯人と誘拐された子供という関係ではなく、親子に近い親密な関係に変わっていく。恐らく、その頂点は、「エホバの証人」で許されていないイースターの仮装(おばけのキャスパーの衣装)を、フィリップ自らが盗む場面だろう。しかし、その後に泊めてもらった小作農の家で、父親が子供を殴るのを見て、ブッチは、自分の子供時代と重ね合わせて激怒する。そして、銃で父親を脅して改心させようとするが、フィリップはは父親が殺されると誤解してブッチを撃ってしまう。逃げ出したフィリップを追う重傷のブッチ。野原の真ん中の木の下で、フィリップは撃ったことを詫びる、ブッチはそれを許してやる。そこに、警官隊が殺到。ヘリで駆けつけた母親に、ブッチは、フィリップの好きなことをさせるよう約束させて解放するが、彼は、途中でブッチのケガが心配になり戻ってきてしまう。それを見て、ガーネットが丸腰になって近くまでフィリップを引き取りに行くが、ブッチが最後に記念として渡そうとしたアラスカの絵葉書を、銃だと勘違いしたバカなFBIの捜査官に撃たれてしまう。

T.J.ローサーは、出演時7歳。映画での設定年齢は8歳。子役の場合、映画の設定年齢より年上の子が演じることはあっても、逆はまずない。T.J.は、とても可愛くて、演技も巧い。しかし、今、その姿を見られるのは、VHSしかない『母の贈りもの』(1993)と、字幕の存在しない『The Long Road Home』(1999)くらい〔左下と右下の写真〕。前者は、大家族の末っ子の端役。後者は主役。出演時12歳なのに、声変わりしていて、面影も消えかけている。
  


あらすじ

1963年のイースターの夜。子供たちがお菓子をもらおうと、仮装して、あちこちの家を回っている。しかし、ペリー家の子供3人はキッチンで静かに話し合っている。姉が、「もし 行けるんなら…」。「お姫様よ」。「そうね。ジュディーは、きっとバトンガールだわ」。「太りすぎよ。私はシンデレラかピーターパンがいいな」。「ピーターパンは男の子、女の子ならティンカーベルよ。ピーターパンならフィリップでしょ」。そのフィリップは全然面白くない。「一度くらいやりたいよ」と言うが、母は、「私たちの信仰は、より高い所へ連れてってくれるの」と言うばかり(1枚目の写真)。母には大事な信仰でも、フィリップには関係ない。その時、ノックとベルの音がして、リーヴス家の子供たちが “Trick or Treat(いたずらか、もてなしか?)” と言うが、母は「ごめんなさい。ウチはハロウィーンはやってないの」と断る。「エホバの証人だから」(2枚目の写真)。毎年のことだから、一家の不参加は周知されている思うのだが…。しばらくすると、数人の悪戯が寄ってきて、フィリップの部屋の窓 目がけて色んなものを投げつける。「これが、お前への “Trick” だ」「爆弾投下」。ガラス越しに見ているフィリップ(3枚目の写真)の正面に当たると、「うまいぞ」。一人、疎外感を味わうフィリップ。後になって、フィリップがハロウィーンの衣装に執着する動機はここにある。
  
  
  

一方、州のハンツビル刑務所では、二人房に入っていたブッチとテリーという正反対の2人が協力して脱獄に当たっていた。房の背後の換気口を壊して換気用の通路に出た後(1枚目の写真)、外壁とつながっている大形のファンを壊し、ベッドシーツをつなげた「ロープ」で、地上まで近くまで降りる(2枚目の写真)というものだった。1849年に出来た古い建物ならではの構造を利用した脱獄法だ。2人が地面に降りると、ちょうど運よく、用事で刑務所を訪れた所員の車が停まっていた。所員を、待ち伏せし、奪った拳銃で脅して関門を通過して所外に出る2人。テリーが所員を殺してボンネットの中に隠し、そのまま近くの町で別の車を物色することに。しかし、物色に出かけたテリーは、窓越しにフィリップの母を見て、欲情を起こして家の中へと侵入する。
  
  

テリーは、子供たちの朝食を用意している母を抱き寄せ、「ここには、男はいないんだろ?」と言って銃を突きつける。性行為に及ぼうとしていると、そこにフィリップが現れる。「新兵が来たぞ。この家にもチビ助がいたか」(1枚目の写真)と言って、近付いてきたフィリップの頬を張り飛ばす。そこに、帰りが遅いので様子を見に来たブッチが現れ、母を抱いたテリーを突き飛ばす。さらに、母が襲われているのを窓から目撃した隣の老人も、ライフルを持ってかけつける。ブッチは、フィリップを盾として抱き寄せると、「銃を置くんだ、爺さん」と命令する(2枚目の写真)。「俺には当たらず、子供を撃つだけだぞ」。老人はライフルを床に置く。テリーの「どうやってここを出る? 近所中が起きちまったぞ」に対し、ブッチは、母親を救うため「子供を連れて行こう」と言って、フィリップを抱えたまま車まで走り、頭から助手席に押し入れる。フェリップは寝起きなのでズボンをはいていない(3枚目の写真)。頭のイカれたテリーは、銃をぶっ放して出発。気違いじみた男たちに8歳の息子を人質に奪われた母は、道路に茫然と立ち尽くす。
  
  
  

気の合わない2人は、最初からもめている。テリーは、朝、ブッチに思い切り突き飛ばされて壁に衝突した際ケガをして、それを根に持っている。テリー:「今度、やってみやがれ」。ブッチ:「俺を脅すのか?」。「脅しじゃない。現実だ」と言って拳銃をちらつかせる。ブッチは、フィリップにハンドルを持たせると、後部座席のテリーに「2秒で、鼻をぶっ潰す」と言い、「これが脅しだ」と鼻に一発お見舞い。鼻血が飛び散る。見ないようにするフィリップ(1枚目の写真)。ブッチは悠々と拳銃を奪う。「これが現実だ」。テリーは、頭にきて、「お前を殺してやる」。ブッチは、フィリップに、「あれは 脅しだ。違いが分かったか?」。当然、フィリップには分からない。途中でスタンド兼雑貨店に寄る。ブッチは、「いいか、フィリップ、俺はタバコを買ってくる」。そして、「これを持ってろ」と言って拳銃を渡す。「目と目の間を狙え。動いたら、引き金を引くんだ。これだ。いいな? 指をかけてろ」(2枚目の写真)。そう言って、ブッチは店に入って行ったが、8歳の子供に銃で脅されたままでいるテリーではない。両手を上げた形でフィリップに近付き、は助手席の片隅に追い込む(3枚目の写真)。両足を抱えた格好なので、パンツが丸見えになる。「可愛いパンツをはいてるじゃないか」「中も覗かせろよ」「貧弱だな」。がっかりして下を見た隙に銃を奪われ、立場は逆転。しかし、テリーが調べると弾は残っていない。そこで、「こっちへ来な」とフェリップに手をかけると、思い切り腕を噛まれる。フィリップの得意な攻撃法だ。フィリップは、車の前のトウモロコン畑に空の銃を持って逃げ込む。
  
  
  

フィリップは小さいので、トウモロコシの間に隠れたら、簡単には見つからない。テリーが捜すのに手間取っているうちに、買い物を済ませたブッチが戻って来る。車の中に誰もいないので、事情を察してトウモロコシ畑を見ると、テリーがウロウロしている。ブッチは、買ってきた拳銃の弾を持ってトウモロコシ畑に入って行く。先にフィリップを見つけたのはブッチ(1枚目の写真)。銃をもらい受けて弾を込める。そして、トウモロコシをかき分けて現れたテリーの頭に銃を突きつける。「どうする? それで殴るのか?」。おもむろに弾を見せるブッチ。「お前と俺はダチだろ?」。しかし、この先、気違い男と一緒では危ないと決意したブッチは引き金を引く。射撃音に驚いて逃げ出すフィリップ。自分も殺されると思ったのかも知れない。店の前ですくんでいるフィリップに(2枚目の写真)、ブッチは、「来るのか?」と訊く。頷くフィリップ。「乗れ」。映画では、もう少し後の話しになるが、この事件を担当するテキサス・レンジャーのレッド・ガーネット署長、犯罪心理学者のサリー(レッドの右)、頭のからっぽのFBI捜査官(右端)が、死体を確認するシーンがある(3枚目の写真)。
  
  
  

2人だけの車内。ブッチからコーラのビンをもらったフィリップは、「ありがとう」と言った後で、「僕も撃たれるの?」と尋ねる(1枚目の写真)。怖そうな顔だ。「まさか。お前と俺は友だちだ」「「一緒にドライブするなら、奴なんかより、断然お前の方がいい」。それでも難しい顔のまま。そこで、「タイム・マシーンに乗ったことあるか?」と話題を変える。首を横に振るフィリップ。「あるだろ。今乗ってるのは何だ?」。「車」。「とんでもない間違いだ。これは20世紀のタイム・マシーン。俺が機長で、お前が航空士だ」。これでやっとフィリップが笑顔になる(2枚目の写真)。「前に進めば未来、後ろは過去だ」。車を停止させ、「ここは現在だ。今を楽しもうぜ」と言い、さらに、「フォードを見つけようぜ。親爺はいつもフォードに乗ってたんだ」と思い出話もする。この時のフィリップの顔がハンサムで、とてもいい(3枚目の写真)。
  
  
  

走っていると、農家の前に、そのフォードが停めてある。ブッチは、車を盗もうと、そっと近付いて行き、50mほど離れた所に車を止める。「さあ、ショッピングだ」「カウボーイとインディアンごっこやったことは?」。フィリップが頷く。「フォードのセダンがあるだろ?」「インディアンみたいに こっそり近付いて、中を覗くんだ。鍵があるか見てこい」。フィリップは、車を盗むんじゃないかと躊躇する。「嫌なら やらなくていいが、航空士になってくれたら嬉しいんだがな」。この言葉にニッコリ笑って車を出て行く。何といってもまだ8歳なのだ。腰をかがめて、小走りにフォードに近付き、運転席のドアを少し開けて鍵がさしっ放しになっていることを確認(1枚目の写真)。しかし、戻って来る途中で様子がおかしい。報告をした後で、思わず顔をしかめる(2枚目の写真)。コーラを4本も飲んだので、おしっこがたまっているのだ。「木のそばで してこい」。その間に、ブッチは食料の袋を持って農家に近付いて行くと、干してある洗濯物からズボンとカラーシャツを拝借する。白い囚人服のままではマズいからだ。それに気付いた農夫が何事かと寄ってくる。ブッチは、急いでフォードに飛び込むと、エンジンをかける。おしっこを途中で切り上げたフィリップが、文字通り 窓から飛び乗る(3枚目の写真)。追いついた農夫が助手席にしがみつく。それを見たブッチが拳銃を取り出したので、フィリップは「撃ち殺されるよりは」と、農夫の手に噛み付き 手を離させる。荒っぽいようで、フィリップの優しい心遣いだ
  
  
  

車の中での2人の会話は、以前よりもより親しげになる。「お前と俺は 似た者同士だな。2人ともカッコいい。俺達はコーラが好きだ」。ここまでは、笑顔だったフィリップも、「どっちも、ダメ親爺しかいない」には渋い顔。「ママは、戻るって言ってた。僕が10歳くらいになったら」と援護する。「嘘ついてるのさ。絶対だ。いいか、戻ってなんかこない。だから、俺たちは自分で生きてくしかないんだ」。途中で寄った田舎町で、「テキサス1愛想のいい店、フレンドリーズ」の看板を見て、車を止めるブッチ。「そろそろ、ズボンでもはくか?」。頷くフィリップ。「じゃあ、行こうか」「まず、あだ名を決めとこう。偽名のことだ。他の奴らの前じゃ、それで呼び合うんだ」(1枚目の写真)。結局、フィリップはバズになる。店に入り、ブッチはズボンと靴と下着を注文する。洋服売り場に連れて行かれたフィリップだが、売れ残ったハロウィーンの衣装に気を取られる。それは、おばけのキャスパーのお面と、白いおばけの着ぐるみだった。しかし、レジに持って行くと、半額にもかかわらずブッチは買ってくれない。その頃、店の前の道路では、通りかかったパトカーが盗まれたフォードに気付き、2台で道路を封鎖する。車に乗り込んだブッチは、フィリップがいないことに気付くが、その時、待機していたパトカーがフォードの真後ろにつける。ブッチは、2台のパトカーにフォードをぶつけて動かなくしてから、店の前に車を寄せる。そこには、ハロウィーンの衣装を盗んでセーターの中に隠したフィリップが待っている(2枚目の写真)。盗みに気付いた店員が、「バズ、悪い子ね。万引きは犯罪なのよ!」と叫ぶ。ブッチは、「お前に任せる」と声をかける。人質のままでいるか、窃盗で捕まるか、究極の判断に迫られたフィリップは(3枚目の写真)、結局、車に乗って逃げる方を選び、また、頭から飛び込む。
  
  
  

追ってくるパトカーをやり過すため、農家の納屋の裏に車を止めたブッチ。買って来たズボンを渡し、「その汚れた下着を脱いでジーンズを履け」と言うが、フィリップはじっとしたまま。胸のふくらみを指して、「それ何だ?」と訊くと、「おばけのコスプレ」と言って箱を見せる。「さっきの店で盗んだのか?」。恥ずかしそうに下を向くフィリップ(1枚目の写真)。「そうか、じゃあ 着てみろ」。「怒らないの?」。「お互い、了解しておこう。盗むのは悪いことだ。だが、欲しい物があって 金のない時は、借用してもいい。例外規則って奴だ」。それでも履き替えない。「俺の前で、脱ぎたくないのか?」。「貧弱なんだもん」(2枚目の写真)。「誰が言った?」。難しくて、何とも言いようのない顔をするフィリップ(3枚目の写真)。事情を察したブッチは、「見せろ」。そして、「お前の年なら、ちょうどいい大きさだ」と言ってやる。それを聞いて、急に晴れやかな顔になる(4枚目の写真)。たわいのない話だが、表情の変化が面白い。
  
  
  
  

ブッチは、フィリップに地図を渡し、「人差し指で、道を辿るんだ」「指に3つ線があるだろ。線の間が1インチだ」(1枚目の写真)。「チルドレスまで何インチある?」。「6」。「立派な航空士だな」。子供の扱いが実に巧い。その時、反対側車線を1台の変なトレーラー・カーが走ってくる。レッド・ガーネット署長以下を乗せた捜査指令車だ。こんな所ですれ違うとは、捜査ミスも甚だしい。しかし、犯罪心理学者のサリーが、すれ違った車に乗っていたキャスパーのお面を付けた子供に気付いたため、慌てて方向転換。すぐい追いかけるが、スピードの出しすぎと、ブッチのとっさの機転で、トレーラーと牽引車が分離してしまい、森の中に突っ込んで立ち往生。ブッチは悠々と逃げ去る。だが、その辺りの道路は、建設工事が途中で中止になった所が多く、ブッチもそんな場所に遭遇してしまった。車から出て、どうしようかと考えるブッチのそばに、寄り添うように立ったフィリップ(2枚目の写真)。いいコンビだ。「どうするか決めないと。お前に任せる。ハイウエイを戻るか、歩いて進むか」。「どこへ行くの?」。ブッチは古い絵葉書を見せ、「アラスカだ」と言う。「歩くか?」。「遠い?」。「最大でも1500マイルだ」。そんな、まさか、というフィリップの顔(3枚目の写真)が傑作(3枚目の写真)。その顔を見て、戻ることに決めたブッチ。残りの食料がほとんどないと知って、調達を決意する。
  
  
  

遠くに見える農家に向かって歩く2人。途中で、ブッチから「“Trick or Treat?” をやるんだ」と言われ、フィリップの足が止まる。「今度は、何だ?」。「“Trick or Treat?” はダメなんだ。ママが許さない」。「どうして?」。「信仰に反するから」。「反する? どんなバカが、そんな?」。「エホバの証人」。ブッチは、少し考え、「いいか、フィリップ、お前に訊いてるんだ。母さんやエホバにじゃない。“Trick or Treat?” をやりたいのか、やりたくないのか?」。首を縦に振るフィリップ(1枚目の写真)。その後、フィリップが嬉しそうに、ブッチと手をつないで農家に向かう(2枚目の写真)。これはもう、どう見ても親子だ。フィリップは、言われた通りにドアをノックして “Trick or Treat?” と言うが、出てきたおばさんは、ハロウィーンは昨日で終ったからと断る。しかし、ブッチがわざとらしく銃を見せると、慌てて家の中に入って行き、パンとか野菜とか、あり合わせのものをすべて持ってくる(3枚目の写真)。
  
  
  

車に戻り、運転しながら、フィリップにマスタード・サンドを作らせるブッチ。食パンにマスタードを塗っただけのもの。それを食べ始めたブッチだったが、野原でピクニックをしながら楽しんでいる家族連れを通り過ぎ、坂に差しかかった所で車を止める。そして、エンジンをかけたまま、ギアをパーク・レンジに入れ、「すぐ戻る」と言って丘を登って行く。案の定、丘の向こう側では、警察が検問をしていた。一方、フィリップは、マスタードを塗ろうとした拍子にギア・レバーを動かしてしまい、車がバックし始める。大声で「ブッチ!」と叫ぶ。後ろを振り向いたフィリップは、家族連れの車にぶつかりそうなのを見て恐怖におののく(1枚目の写真)。ブッチに「ブレーキをかけろ!」と言われ、間違えて手でアクセルを押してしまう。家族連れの車スレスレに通って、丘の途中まで登り、何とか停車する。しかし、今度は、前向きに走り出しブッチの手前で急停車。結局、ブッチは、車のブレーキの調子が悪いからと言って、家族連れの車に同乗させてもらう。ブッチとフィリップは、ステーション・ワゴンの最後尾に2人で横になって座る。家族にまぎれて 無事検問を突破することができた(2枚目の写真)。しばらく走ると、ブッチが、「ここで 降ろしてくれ。だけど、もう一つだけお願いがある」と言い出す。次のシーンでは、一家が道路際に荷物と一緒に立たされている。「少し借りるだけだ。心配するなって。ちゃんと返すから」。新車のことが心配な亭主が、「新車だから、500マイルまでは時速45(72キロ)以下で走ってもらえるかな」と頼む。「そうするよ」。走り出してすぐ、フィリップが「変な人たち」と笑う(3枚目の写真)。しかし、ブッチは、「奴のやったことは正しい。もし争ってたら、俺は奴を撃ってたかも。そしたら家族はどうなる?」と諌め、フィリップの顔が急に曇る。フィリップは、ブッチに誰も殺して欲しくないのだ。
  
  
  

新車に乗りながら、ブッチがフィリップに信仰について訊くシーン(1枚目の写真)。「エホバだから、“Trick or Treat?” がダメだからとかいう奴、俺をからかってたのか(pulling my leg)?」。「いいえ」。「他に、できないものはあるのか?」。「クリスマスもだよ」。「冗談だろ?」。「誕生日も、パーティーもダメ」。「謝肉祭もしたことない?」。「ううん」。「綿菓子は?」。「一度、見たけど… 赤いよね」。「いいや、ピンクだ」。「食べてないから」。「ジェットコースターは?」。「写真でなら」。「アメリカ人なら、綿菓子を食べ、ジェットコースターに乗る権利があるんだぞ」。「僕も?」(2枚目の写真)。「ああ、そうだ」。そんなフィリップを可哀想に思ったブッチは、車の屋根に縛り付けて、ジェットコースターの気分を味合わせてやる。大喜びのフィリップ。
  
  

うらぶれた食堂「ドディー」に夕食に入る2人。「Squat & Gobble」のチェーン店にもなっている。ハンバーガー・サンドを2人で注文。料理を運んできた女性〔1人で店を切り盛りしている〕が、ブッチに興味を抱き、しきりと誘う。その微妙な雰囲気が気にかかるフィリップ(1枚目の写真)。遂に、ブッチはテーブルを離れ、女性のいるカウンターへ。2人で事を進めるには邪魔なので、フィリップは、「外に行って石でも投げてろ」と追い出される。邪魔がいなくなると、ブッチは さっそく女性の寝室に行き、あちこちキスを始める。ところが、それを窓から覗いているフィリップに女性が気付き、興ざめしたブッチは、すぐに車を出す。「僕のこと 怒ってる?」。「いいや」。「キスしてたね?」。「ちょっぴりな」。「なぜキスするの?」。「気持ちいいからさ。ママがキスするの 見たことないのか?」。「お尻にキスしてたね?」(2枚目の写真)。「説明が難しいな。何か、変に見えるだろ」。「愛してるの?」。「ああ、愛してるさ。尻にキスしたろ」。それを聞いて、笑い出すフィリップ。夜もふけ、ホテルに泊まるわけにはいかないので、車をトウモロコン畑に乗り入れる。急に、「家に帰りたい」と言い出すフィリップ。 「じゃあ、なぜ店に残らなかった?」。「盗んだから。刑務所に入れられて、僕は地獄落ち」。「似たような場所さ。すぐ帰してやる。約束だ」。ニッコリするフィリップ。ブッチは、メモ帖を取り出させ、「したかったけど、許されたかったことのリストを作れ」と言う。「どんな?」(3枚目の写真)。「綿菓子とか」。こうして、後で重要になるリストが出来る。
  
  
  

真夜中に、突然前方が眩しくなったかと思うと、農作業のトラクターが目の前で停止した。先に気付きブッチを起こすフィリップ。それは、涼しい時間帯に夜間作業に来た黒人の小作農だった。仮眠中だったというブッチに、ウチのベッドで寝たらと親切に勧める農民。最初は遠慮したが、朝食付きと聞き同行するブッチ。次のシーンでは、もう朝。黒人の子が2人の様子を見に行き、気付いたフィリックが、誰かと思いびっくりする(1枚目の写真)。さっそく妻と子供と4人で朝食。そこに農夫が仕事から帰ってきて、息子に、「おい、坊主、走って魔法瓶を持って来い」と命じる。すぐに動かないので、「おい、聞こえんのか?」と頬を叩く。子供の頃、父から虐待を受けてきたブッチには、そうした行為が許せない。急に雰囲気が白ける。農夫が自分の部屋に行き、4人だけとなると、ブッチは子供の両手を持って、何度も空中回転させてやる(2枚目の写真)。そして、置いてあったレコードをかけ、妻とダンスを始める(3枚目の写真)。母子とも、ブッチのことを、何ていい人だろうと思ったことであろう。
  
  
  

しかし、その幻想は、農夫が自室で聞いていたラジオで脱獄犯のことを知って消え去る。ブッチは、ラジオを消すと、「俺たちは すぐに出て行く。バカやったら、全員殺すぞ」と農夫を脅す。ブッチが何者かをまだ知らない息子が、空中回転をやってと頼むのを見て、農夫は「すぐに婆様のトコに行け」と命じる。渋って動かないので、体ごと持ち上げて、また頬を何度も叩く。それを見て怒ったブッチが、農夫を床に張り倒し、首ねっこを抑え、「なぜ、その子を叩く?」と詰め寄る(1枚目の写真)。「すぐ言う通りにしなかったからか? 何かに気を取られてると、気付かないことだってある。むかつく野郎だ」(2枚目の写真)。ブッチは、フィリップに銃を渡して農夫を狙わせ、目の前で何度も息子の空中回転をやって見せる。そして、フィリップに車からロープを持って来させ、農夫の手と足をロープで縛る。今までのブッチからは想像できない乱暴な行動に、違和感を覚える場面だ。ブッチが今にも農夫を撃ち殺しそうなので、思わず神に祈る母子。それが邪魔なので、ブッチは母子の口にガムテープ貼り、体にも巻きつける。それを辛そうな顔で見ているフィリップ(3枚目の写真)。
  
  
  

しかし、ブッチがテープを貼ろうと銃を床に置いた隙に、フィリップは銃を奪ってしまっていた。そして、てっきりブッチが農夫を殺そうとしていると思い込んでしまう。銃がなくなっているのに気付きフィリップの方を振り向いたブッチめがけて(1枚目の写真)、いきなり銃を発射する(2枚目の写真)。この場面も あまりに唐突だ。最終的な結末が決まっていて、そこに向かって無理に劇を進めている気がしてならない。弾が命中・貫通したのはブッチの胃のあたり、大量の出血が始まる。フィリップは泣きながら家を飛び出し、家の前の井戸に銃を捨てる(3枚目の写真)。そして、野原に向かって逃げて行く。撃たれた箇所〔腹部と背中〕を両手で押さえながら、ブッチも よろよろと後を追う。
  
  
  

連絡を受けた警察が農夫の家に駈け付け、農夫はブッチが拳銃を持っているという誤情報を与える。撃ったのはフィリップなのに、この情報の与え方も、映画の結末を誘導するための作為的な証言としか思えない。拳銃を持っていないことが分かっていれば、結末は全然違っていたはずなので、「まず 結末ありき」というところか? さて、フィリップはずっと逃げて、野原の真ん中にあった木に登る。ブッチは、重傷ながら、何とか木の下まで辿り着き、木にもたれかかる(1枚目の写真)。そして、訥々とフィリップに語りかける。「アラスカは、荒くれ者の地だ。男 対 自然。俺にはその可能性がたまらない。親爺が住んでると話したか? 1枚だけ絵葉書を寄こした。何て書いてるか、読んでやる。『ロバートへ。これだけは言いたかった。家を出たのはお前のせいじゃない。アラスカはとっても美しい所だ。いつも地獄みたいに寒いけどな。いつか、お前も来てみろ。お互いをもっと良く知り合えるだろう』」(2枚目の写真)。「少し休んだら、どうするか決めろ」。心配になったフィリップは、木から降りていく。「初めて撃たれたぞ」。「ごめんなさい」。「分かってる。ホント言うと、もしこうなるなら、お前でよかったんだ」(3枚目の写真)。
  
  
  

そこに、一斉に警察車両が到着する。署長は拡声器を手に取ると、「テキサス・レンジャーのレッド・ガーネットだ。怪我してるのは分かってる。お前の回りには20・30人の武装警官がいる。いつでも撃てるぞ」と、投降を呼びかける(1枚目の写真)。フィリップの母もヘリで到着する。能無しのFBIが狙撃銃の組み立てを始めるが、この男、ブッチを殺したくて仕方ないのだ。このような状況下にあって、ブッチは意外なことを要求する。「おい、署長、キャンディーあるか? ハロウィーンのキャンディーだ。キャラメル・ポップコーンとか、りんご飴とか、ガムだ。キャンディーがあったら、おばけをそっちに行かせる」。さらに、母親には、「毎年 “Trick or Treat?” をさせろ」と言い、フィリップが書いたリストを受け取り、「もう1つある。お祭りに連れてってジェットコースターに乗せ、綿菓子を買うんだ」(2枚目の写真)。母親が、「約束するわ」と叫ぶ。ブッチは「信用できるか?」とフィリップに訊く。「すごくいいママだよ」。「家に着いたら、これは隠しとけ」と言って札束をフィリップの襟に突っ込む。「ブッチは、悪人じゃないよね?」(3枚目の写真)。「どうかな」。そう言うと、フィリップに、お面を付け、両手を上げて、警官隊の方に歩いて行くように命じる。
  
  
  

途中まで歩いて行ったフィリップだが、ブッチがよろよろと逃げて行くのを見て、助けようと走って戻ってしまう(1枚目の写真)。「せっかく うまい取引をしてやったのに。まだ、何かして欲しいのか?」。「撃たれちゃうの?」。否定も肯定もしないブッチを 思わず抱きしめるフィリップ(2枚目の写真)。フィリップは、ブッチが撃たれないように手をつないで、一緒に警官隊の方に歩いていく(3枚目の写真)。
  
  
  

それを見た署長は、FBIのバカに「合図するまで 何もするな」と釘を刺してから、銃を置き、丸腰で2人の方に向かって歩き始める。10メートルほど離れて向き合うと、署長は「銃は持ってない。お前も銃を捨てろ」と呼びかける。ブッチは、「銃を持ってりゃ、こんな方に来るかよ。俺の相棒が、証拠隠滅しちまった」と応じる。さらに、「この子と話したい。そしたら、やるべきことをする。どうだ? すぐ済むぞ」。署長はOK。ブッチは地面に座り込み、「お前にやる物がある」と言い、「いつか、お前は…」と、アラスカの絵葉書を取り出す(1枚目の写真)。しかし、それを銃だと勘違いしたFBIのバカが、署長の合図なしに、ブッチの胸を撃ってしまう〔撃つなら、腕を狙えばいい〕。泣いて、ブッチに抱き付くフィリップ。そこに母が駆け寄る(2枚目の写真)。母の抱擁から離れたフィリップは、ブッチに近寄り、手に握られた絵葉書を 大切な形見として受け取る(3・4枚目の写真)。そして、何度も「ブッチ!」と叫ぶ。激怒した署長は、射殺したFBIのバカを思い切り殴り、一緒に付いて行った犯罪心理学者のサリーが、直後に股ぐらを蹴り上げる。殺人狂にはいい気味だが、ブッチが死んでしまったことには変わりがない。死なない方が、脚本に無理がなくていいと思うのだが。それに、FBIがこんなに無能でいいのだろうか?
  
  
  
  

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